避難に結びつく情報発信

(文:太田祥歌)

災害はある日突然、人々の生活や命を脅かします。しかし、それは全く予見できないものばかりではなく、監視システムや警報システムの発達により、事前にある程度被害が予測できるものもあります。では、こうしたシステムを整え、早期に情報を伝えれば人々の生活は守れるでしょうか。科学的な情報が必要なのはもちろんのことですが、より多くの人々を守るためには、他にも工夫が必要なようです。

フィリピンは年間を通し台風が発生します。その被害は台風の大きさにより様々ですが、記憶に新しいのが2013年11月に発生した台風30号(フィリピン名:ヨランダ)です。フィリピン中部を襲ったこの台風により、レイテ島では長時間にわたり高潮が押し寄せ、その様子を報じた映像は、2011年の東日本大震災の津波を彷彿とさせました。2014年1月のフィリピン国家災害対策局の発表では、フィリピン全体で死者6,201人、行方不明者1,785人、家屋の損壊は約114万棟の被害が出ました。

台風が多いフィリピンでは、監視システムが整備され、その科学的データに基づいた情報発信、警報システムが存在します。実際、台風ヨランダは発生時から、フィリピン史上最大の台風として警戒されていました。各機関は、その規模やルートを監視し、早い段階から警報を出し、住民たちに適切な避難を呼びかけていました。こうした情報は、テレビ、ラジオだけでなくSNSを通じ、誰でもタイムリーに見ることができます。

それにも関わらず、なぜ大きな被害を出してしまったのでしょうか。被災後にメディアが報じたのは、地元語やタガログ語にstorm surge(高潮)を表す言葉がなかったため、情報発信の際、英語のまま発信してしまったことが要因の一つであるということでした。台風が来る前ニュースを聞いてはいたが、単語の意味がわからず、避難にまでは至らなかったという地元住民の声が挙げられています。

フィリピンは多くの島からなる島嶼国家です。外務省によると、7,109の島々があり、80前後の言語があるとされていますが、他の情報では100を超える言語が話されており、各言語の相互理解は難しいという現状があるそうです。代表的なタガログ語は、もともと首都のマニラ周辺で使われていた言語で、メディアを通じて広まりました。

フィリピン国内で高潮が頻発する一部地域では、そこで話される言語の中に「高潮」を意味するものが存在しました。しかし、メディアで広く使われているタガログ語や、レイテ島で話される言語の中にそれを意味する言葉はありませんでした。メディアのインタビューに答えた住民の中には、「日本の津波のような波が来ると言ってくれていたら」と振り返っている人もいます。

同様の問題は、東日本大震災後の日本でも浮き彫りになりました。被災地に住んでいた外国人が、災害時の放送が普段聞きなれない日本語のため、意味がわからなかったと声を挙げています。中には、「避難」という言葉の意味がわからず、近隣の住民の呼びかけでやっと逃げなくてはいけないことに気づいたというケースも存在します。

災害時の情報は、時に生死を分けるものであり、限られた言語でなく、影響を受ける人が使うあらゆる言語で発信されるのが理想かもしれません。しかし、現実問題として、それは困難です。そこで、母語でない人が聞いても理解しやすいように易しい表現を使う、情報を噛み砕くといった工夫や、言語以外の手段で危険を促すという取り組みが必要になってくるでしょう。