イスラム文化における、避難と服装

(文:太田祥歌)

2004年にスマトラ沖地震・津波が襲ったインドネシアのアチェ州は、世界最大のイスラム国であるインドネシアの中でも、住民の98%がイスラム教徒という最も敬虔なイスラム地域として知られています。

ジャカルタでは、おしゃれなファッションに身を包むインドネシア人女性をよく見かけます。彼女達に「インドネシアに行くけれど、どういう服装がいいか。」と聞くと「外国人だからなんでもいいよ。」とよく返されるのですが、アチェに行く際には「外国人だから、わかってもらえるとは思うけど、足の線が出ない格好をして。モスクなどに行く時は、スカーフを被れるように持ち歩いて。」と事細かなアドバイスを受けました。

実は、アチェでは津波被災後にイスラム法に基づく州条例を厳格化し、女性のロングスカートの着用など服装の規則も定められました。この条例は、イスラム教徒だけに適用するのではなく、非イスラムの外国人にも適用するべきと考えられています。足を出しているわけではないので、一見いいのではないかと思えるデニムのズボンなども、足の線がわかってしまうので、好ましくありません。あまりにもタイトなものを履いていると警察から注意を受けることもあるそうです。

しかし、他人の目がない家の中では、女性も比較的自由な服装をしていると聞きます。そして、「万が一津波が来て逃げる時は、ヒジャブをつけたり、服をわざわざ着替えたりしなくてもOK」とのことだそうです。たとえそのような格好でモスクに逃げ込んだ場合でも、命を脅かされるような緊急事態では致し方ないと判断されるとのことでした。

日常的な服装の自由についても、様々な議論があると思います。しかし、防災について考える時に大事なのは、現地社会の習慣や現状のルールの中で、命を守るためのとっさの行動、判断が多くの人に周知されることだと思います。万が一の時、モスクにヒジャブを被らなくても避難していいというのは、アチェに住む人々の意識の中に浸透しているのでしょうか。もし次に津波が来た時、女性たちが迷わず、文字通り「着の身着のまま」の状態で素早い避難が実現することを願っています。